IAEAは新潟県で原発設計時の耐震強度を超える地震が発生したことを重く見て査察が必要との認識を示した
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経済産業省原子力安全・保安院は22日,IAEAによる新潟県中越沖地震で被災した東京電力柏崎刈羽原発の調査の申し入れを一転して受け入れる方針を決めた.これに先立ち泉田裕彦新潟県知事はIAEAの調査を受け入れるよう政府に文書で要請した.
〔共同通信動画ニュース〕柏崎刈羽原発で1メートル超す陥没も
2007年7月16日10時13分ごろ新潟県上中越沖を震源地とするマグニチュード 6.6の地震が発生した.震央は北緯37度33.4分,東経138度36.5分,深さ10km,震央から発電所までの距離は約9キロだった.3年前の2004年10月23日には,新潟県中越(北緯37度17分,東経138度52分,深さ13km,震央から発電所までの距離は約28キロ)で最大震度7,マグニチュード6.8の地震が発生している.原子力委員会が定めた発電用原子炉施設の耐震設計審査指針では直下型地震の規模をマグニチュード6.5と想定している.日本政府と原子力委員会は,2004年にすでにこの耐震基準を上回る規模の地震が発生していたにも関わらず,対策を怠って国民を重大事故発生の危険に曝してきた.今回の地震ではついにIAEAが,「事故調査に協力する用意がある」という婉曲な表現ながら,直接調査に乗り出す姿勢を示した.

写真はAP:地震で傾いた鉄塔,手前地面にはクラックが走っている.
チェルノブイリ級の事故が発生してもなんら不思議ではない.
IAEA、柏崎刈羽原発の事故調査で協力の用意
(日経BP,2007-07-18)
7月18日、IAEAのエルバラダイ事務局長は柏崎刈羽原発(写真)の事故調査で協力の用意があると発表(2007年 ロイター/Issei Kato)
[クアラルンプール 18日 ロイター] 国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長は18日、新潟県中越沖地震により東京電力<9501.T>(株価)の柏崎刈羽原子力発電所から放射能を含む水が海に流出するなどした事故に関する調査で、日本の関係当局に協力する用意があると表明した。
エルバラダイ事務局長は記者団に「IAEAは、日本に協力して国際チームを派遣し、(刈羽原発の)事故を調査し、そこから必要な教訓を引き出す用意がある」としたうえで、「日本の当局からは情報を得ている。今回の地震は、東電がすでに指摘しているように、発電所の設計時に想定した以上に強い規模だったことは明らかだ」述べた。
エルバラダイ事務局長は、原子炉の構造は損傷を受けていないが、日本がこの件について徹底的な調査を行うことは必要だとの見方を示した。
事務局長は「原子炉の構造またはシステムが損傷を受けたというわけではないが、日本が原子炉の構造やシステム、部品を徹底的に調査し、この地震から必要な教訓を引き出すことが必要だ」と述べた。
また「日本がこの調査で透明性を保つことを望んでいるし、またそうすると信じている」と付け加えた。
2007年7月18日水曜日
下の写真は,東京電力柏崎刈羽原子力発電所の全容.新潟県柏崎市と刈羽村にまたがって立地されている.敷地面積は420万平方メートルでディズニーランドの5倍.中央のグリーンゾーンをはさんで画像向かって右側の区画(柏崎市より)に1~4号機,左の区画(刈羽村より)に5~7号機が並ぶ.沸騰水型軽水炉7基(うち6,7号機は改良型沸騰水型原子炉)の総出力は821万KWでギネスブックに世界最大の原子力発電所として登録されている.1600万世帯に電力を供給できるパワーがあり,1.5MW級風力発電機に換算して16000台に相当する.発電された電力は50万V送電線で,群馬県・山梨県を経由して首都圏に供給されている(南新潟幹線は技術的に100万Vでの送電が可能な構造となっているが,電磁波の影響を懸念する反対の声が強く実施されていない.送電損失は電圧の2乗に比例して小さくなる).

東京電力柏崎刈羽原子力発電所全容.出典は原子力委員会.
次の写真は《低気温のエクスタシーbyはなゆう》のはなゆうさんが,NHKで放映された映像に現れた地面の隆起などをもとに推定した断層線(黄色)をGoogleの衛星写真上に書き込んだマップである.この断層線の傾きをその下の地図上の×の並びと比較して欲しい.これら2つの地図は北を真上にした通常の図法で表記されているが,2つの線の傾きは完全に一致している.これは原子力プラントが活断層の真上に乗っていることの紛れもない証拠である.

NHKの映像などから推定される断層線(黄色)を衛星写真に書き込んだ.作成ははまゆうさん.
下の図版は今回の新潟県上中越沖地震と2004年の新潟県中越地震の震央(×印)を地図上に書き込んだものである.2つの×印の中央にある×印は,帝国石油の長岡市深沢液化炭酸ガス注入現場の位置を示す.これら3つの×印がオリオン座のベルトのようにきれいに並んでいることが看取できる.炭酸ガス注入地点は2つの地震の震央を結ぶ線上にあり,ほぼ等距離(20キロ弱)の位置にある.これはこの3つの×点を結ぶ線上に活断層が存在することを強く示唆している.発電所の正確な緯度と経度は分からないが,震央までの距離は前回が28キロ,今回が9キロとされているので,概数としてそれぞれ30キロ,10キロを取れば,地図をみなくてもこの2つの震央を結ぶ線上にあることが推論できる(30+10=20+20=40キロ).

2007年と2004年の2つの地震の震央と帝国石油深沢サイトの位置関係.
ここでは2003年から1万トンの液化炭酸ガスを1100mの地下に注入する
CO2地下貯留実証実験が行われていた.作成は石田地震科学研究所.
下の写真は,柏崎市側から1~4号機の配置されている区画を空中撮影したもの.はなゆうさんが衛星写真に書き込んだ「断層線」を赤線で書き込んでいる.火災を起こした変電機と傾いた送電線の足元を通っている.赤線が完全な水平線になっているのは偶然だが,そのものずばり,活断線が敷地を横断している.前回の地震(発電所からの距離28キロ)のときには「点」だったので,「活断層は直下ないし近傍には存在しない」という言い逃れができた.しかし,今回の地震によって2つの「点」がつながり「線」になった.もはやこの事実は否定できない.実際,気象庁などの余震解析で新潟県中越沖地震を起こした海底の断層が原発プラントのある陸地直下まで及んでいることがほぼ断定された.余震は本震で放出されなかったエネルギーが断層面にそって放出される現象だから,余震の震源をプロットすると断層面が推定できる.

柏崎刈羽発電所の空中写真に,推定される活断線(赤線)を書き込んだもの.
Leonard ENERGY に Hans De Keulenaer が投稿した写真を借用.
この4機の原子炉はおそらく,無期限に停止するしかないだろう.地球環境産業技術研究機構(RITE)が主体となって,2003年6月20日から新潟県長岡市深沢の地下約1100mにCO2を圧入する実証実験が実施された.1日約20トン,約1年半かけて合計約1万トンのCO2を地中に圧入するという実験である.この問題を最初に提起したのは,石田地震科学研究所の工学博士石田昭氏(名古屋大学)である.氏は地震発生とともに,逸早く「[1267]先ほどの地震について(1)」という記事をサイトにアップされている.上掲のマップはこの記事から借用した.少なくとも原因が「完全に」解明されるまでは,CO2の地中貯留実験は中止すべきだろう.
人為的な行為によって引き起こされる地震を「誘発地震」という.地震学者の島村英紀氏(北海道大学)は「人間が起こした地震」というエッセイ(1997年)の中で,誘発地震の多くの実例を挙げている.「...大地震のエネルギーは大きな発電所の何百年分もの発電量に相当するくらいだから、おいそれと人間が作り出せるエネルギーではないからである。しかし、人間は間接的には地震を起こせないことはない。つまり、地震が起きそうなだけ地下にエネルギーがたまっているときには、人為的な行為が地震の引き金を引くことは出来るのだ。」(引用同書)
上記のCO2地下貯留実験は採掘とは関係ないが,帝国石油の南長岡ガス田で行ってきた「水圧破砕法」という工法が新潟中越地震を誘発している可能性があることを,島村英紀氏は上掲記事の「追記」の中で指摘されている.南長岡ガス田は新潟中越地震震央から20キロの距離にあり,地下4.5キロに高圧水を注入して岩を破砕し,坑井を「刺激」して生産性を8倍も向上させることに成功したと言われる.南長岡ガス田が「水圧破砕法」を使い始めたのは2000年以降である.注水によって地震が発生する事例が存在することは完全に実証されている.深度もCO2注入が1100mなのに対して,4.5kmであるから地震誘発効果はむしろこちらの方が高いのではないか?もちろん,これらの複合効果と考えるのが最も素直だろう.

SOBAさんが刈羽原子力発電所の位置を追加したマップ.これこれ,これが見たかったのよ.どちらも経済産業省の管轄だが.原子炉の真横で1万トンもの液化CO2を超深度地下に注入したらどんなことになるか,誰も考えなかったのだろうか?もう一つ,欲を言うと,「帝石南長岡ガス田高圧水注入サイト」の位置も欲しかったんだけど...(SOBAさんお疲れさまでした.)
ZAKZAKの報道によると,「南長岡ガス田の深さ5151メートルの井戸で、01年夏に1カ月にわたって950kg/cm2(指先に約1トン)の水圧破砕作業が行われ、昨年秋にも、別の井戸で再度実施された。ちなみに、今回の震源により近い東柏崎ガス田での同作業実績はない。」とされている.RITEサイトの「CO2地中貯留プロジェクト」に掲載された地図で見ると「南長岡ガス田」には12箇所ほどの井戸があり,そのうちのいずれか2箇所の井戸を使って「水圧破砕作業」が行われたものと推定される.ガス貯留層は地下約5kmの緑色凝灰岩層である.地下注水によって誘発地震が発生することは,全国大学の共同研究「野島断層解剖計画」の一環として1997年と2000年の2回にわたり実施された注水実験で再検証された.
IAEA調査、受け入れへ 柏崎刈羽原発で保安院 (中国新聞,2007-07-23)
柏崎刈羽原発のIAEA調査 政府、受け入れの方針 (朝日新聞,2007-07-23)
政府はIAEAの調査を受け入れるべき 「安全性確保」と言えるのか? (オーマイニュース,2007-07-22)
ロイター通信「日本政府が柏崎刈羽原発への調査団受け入れを拒否」 (低気温のエクスタシーbyはなゆう,2007-07-21)
Japan rejects IAEA help at nuclear plant - Kyodo (REUTERS, 2007-07-21)
中越沖地震 原発直下に活断層? (産経新聞,2007-09-19)
新潟地震“人造”だった!? 近くでガス田注水作業 (ZAKZAK,2007-07-19)
地震と長岡の地下への液化ガス圧入との関連性について考察する人 (低気温のエクスタシーbyはなゆう,2007-07-19)
今回の地震と長岡の地下にCO2を圧入したこととの因果関係は? (低気温のエクスタシーbyはなゆう,2007-07-19)
IAEAは次は日本の「核施設」停止へ?(選挙前注意喚起:WEの記事が日経に) (Like a rolling bean,2007-07-19)
柏崎から30キロ以内、風向きによっては300キロ以内の皆様、チェルノブイリ規模の原発事故に備えて、心の準備・覚悟はできましたか。 (雑談日記(徒然なるままに、。),2007-07-19)
中越沖地震:東電が活断層を過小評価? 原発建設前に発見 (毎日新聞,2007-07-18)
原発直下に断層、耐震前提崩れる 中越沖地震、気象庁解析で (東京新聞,2007-07-18)
新潟県中越沖地震 原発直下に活断層 柏崎市が使用停止命令 (産経新聞,2007-07-18)
やはり柏崎刈羽原発の直下にあからさまな断層があったようだ (低気温のエクスタシーbyはなゆう,2007-07-18)
原発直下に断層か、建設の前提に疑問 中越沖地震 (朝日新聞,2007-07-18)
柏崎刈羽原発事故に思うこと・・・ (晴天とら日和,2007-07-18)
柏崎市刈羽村、原子力発電所敷地の航空写真をアップしました。断層の走る方向をほぼ特定。政府は情報を隠さず正直に公開せよ。 (雑談日記(徒然なるままに、。),2007-07-18)
[1267]先ほどの地震について(1) (新・地震学セミナー,2007-07-16)
二酸化炭素地中隔離技術の適用に関する世界の動向 (地球環境産業技術研究機構,2006)
2004 年新潟県中越地震による原子力発電所の地震応答(その1) (日本地震工学会)
岩野原実証試験・モニタリング (CO2地中貯留プロジェクト,財団法人地球環境産業技術研究機構)
地下1100mにCO2を封じ込める、国内外で実証プロジェクト (日経エコロジー,2003-04-09)
注水に伴う誘発地震の発生特性 (西上欽也 et al,地学雑誌,2002)
人間が起こした地震 (島村英紀,地震学の冒険,建築雑誌「施工」,彰国社,1997)
リアルタイムデータ (柏崎刈羽原子力発電所,実時間更新)
2007年新潟県中越沖地震速報 (日本地震工学会,2007-07)
平成16年新潟県中越地震 (日本地震工学会,リンク集)
