身辺雑記(12):七輪を下げてしまうホルモン屋,歩きまくって底の抜けたズック,アビイ・ロードの亡霊
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28日夜,部屋に着いた時は午前2時を回っていた.食料は調達できなかったがペットボトルに残った焼酎の他にも部屋に残しておいた酒類が少しあったのでそれを煽って寝た.翌朝は遅く起きてポストに詰まっていた郵便物を整理してから投票に出かけた.その後乗ってきた一台を元の所有者のところに置いてきた.部屋に戻ると友人が尋ねて来ていて一時間待ったという.部屋でしばらく飲んだ後,近くのホルモン焼き屋に飲みに出た.土砂降りになる.お客ゼロ.小泉改革以前ならいつ行っても早い時間から20人は座れるカウンタが全部埋まっていた店でこれだ.貧乏人には仕事帰り「ホルモンで一杯」の楽しみすら残されていない.この店では肉が焼き上がっているのに追加注文しないと,お客の目の前で肉の乗っている網を下ろして七輪を下げてしまう.燃え残った炭は炭壷で消して次のお客に使う.そこまで営業努力していた店だ.

こんなろくでもないぼろ靴が壊れた話を書いているのは,《きっこの日記》で投票日直前の絶好のタイミングでリンクしてくれたことに対するお返しのつもりだ.なんでこんな話がお返しかと言うと,前にきっこが自分の履いているハイヒールのことを話していて,その中で靴裏の色にこだわるということを書いていたからだ.そのときはへぇーと思っただけだが,完全に底の抜けた靴を見ていたらなぜかその話を思い出してしまった.「どこか似てる」というか,どちらも靴の裏の話だと思ったもので...やっぱ,ちょっと話が違ったかな?(汗)
完全に靴をぶっ壊すまで履いた経験はこれを含めて3回ある.一度はアメリカに渡ったとき.宿泊したのはワシントンDC,イリノイ大シャンペン校周辺,サンフランシスコの3箇所だけだったが(ワシントンでは市内最高?のホテルに泊まったが,サンフランシスコでは一泊2,3ドルの主に学生向けの簡易宿泊施設に切り替えた.アーバナ・シャンペンではその中間のモーテル),毎日相当距離を歩き回った.荷物を最小限にするために夏物スーツ1着とワイシャツ2,3枚,革靴一足で済ませた.山に登るのも海辺を歩くのもこの一足だから,最後は裏から靴下が見えるようになってしまった.このときの話は,「嗚無情:フリーター諸君喜べ!」に少しだけ書いた.

3日目頃にようやく現場を抜け出してディスカウントショップのようなところで出来合いのスリップオンを買った.誰か気付いた人がいただろうか?掃除のおばさんが靴底を拾ってる可能性はあるかもしれないが,社員何千人の中で落とし主を見つけるのは難しいだろう.少なくとも上記のショップの店員は私が裸足でその店まで歩いてきたのを知っていることは間違いない.私は店内でその靴を履き捨てて処分してもらっているのだから...それにしても,このメーカの構内を裸足で歩いた人間は多分(自慢じゃないが)他にはいないと思う.もっとも,スーツを着て裸足で歩いたというのは私が初めてじゃない.1969年に発表されたビートルズの実質的なラストアルバム,「アビイ・ロード」のジャケットで,ポール・マッカートニーは確かに裸足で歩いている.
一説によると,白いスーツで長髪にひげを蓄えたジョンは司祭,黒スーツのリンゴは葬儀屋,ダーク・スーツで裸足のポールは死者,デニムシャツにジーンズのジョージは墓堀人なんだそうだ.ビートルズはこの後アルバムを制作していない.路上のフォルクスワーゲンは明らかに「ビートル」を暗示しているが,ナンバープレートの「281F」を「28」「IF」と分解して,「ポールが生きていれば28歳」と読むという解釈,ポールは左利きなのに右手にタバコを持っているなどから,「ポールは死んでしまった」という噂がかなり広く流れた.その例に倣うなら,私を死者の一人に数えるのはそんなに突飛なアイディアじゃないと思うよ.

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