2011年 04月 05日
原発危機:東電は許されないだけでなく,馬鹿なことをやっている――低レベル放射性汚染水の海洋投棄
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東日本大震災発生から25日目の4月3日東京電力は集中環境施設(低レベル放射性廃液処理施設)のプールなどに保管された11500トンの大量の放射性汚染水の海洋投棄作業を開始した.①これは明確な国際条約違反である.②この作業を緊急避難的已むを得べからざるものとする東電の弁明はまったく非科学的なものであり,筋が通らない.
①については1975年に発効したロンドン条約の1996年議定書がある.条文に当たる時間がないので,(財)高度情報科学技術研究機構の『原子力百科事典』の記事を参照した.
1975年8月末15ヶ国の批准により発効した海洋投棄規制条約(ロンドン条約)ではすべての廃棄物の海洋投棄処分を原則禁止している.日本は当初この条約には加盟せず,この年の10月に(財)原子力環境整備センターを設立して低レベル放射性廃棄物の海洋投棄処分を進めていたが,1980年の太平洋ベースン首脳会議で日本の海洋投棄が議題に上り,「完全な安全性が一定期間にわたって実証され,かつ太平洋の全ての資源が悪影響を受けないことが確証されるまで投棄計画中止を要求する」との共同声明が発表されたことから,低レベル放射性廃棄物の海洋処分を断念し,1980年の11月14日条約に正式加盟した.
1993年,条約締結国のひとつであるロシアによる日本海への低レベル放射性廃棄物の投棄が明らかになり,国際世論の強い批判を浴びた.日本ほかの沿岸諸国は直ちに投棄の即時中止をロシア政府に求めたが,同年11月2日には日本原子力委員会により,「日本は今後,低レベル放射性廃棄物の処分の方針として海洋投棄は選択肢としない」との自己決定がなされた.1996年議定書ですべての廃棄物の原則海洋投棄禁止が決まった.
同条約では,①有機ハロゲン、水銀、カドミウム、廃油、高レベル放射性廃棄物等の海洋投棄を全面禁止する.②ひ素,鉛等を相当量含むもの,低レベル放射性廃棄物等については,締約国の権威ある国家機関が事前に申請に基づいて個別的に投棄の許可を与えるとしているが,低レベル放射性廃棄物の海洋処分については締約国の特別な事前の許可を得ることが求められている.今回の低レベル放射性廃棄物の大量海洋処分は1993年の原子力委員会決定を自ら踏みにじるものであり,公衆の面前で放尿するに等しい破廉恥行為である.
②について考える.東京電力はなぜ海洋投棄という究極の手段を選択するしかなかったかという理由を述べて,「4日午前の段階では、集中環境施設にたまっている水は、現在は復旧作業に影響しない4号機のタービン建屋に移送する計画だった。だが千トンの水を移したところ、3号機の建屋付近の立て坑にたまった汚染水の水位が連動して高まり、あふれ出る恐れもあるためこの計画を断念した。」としている.
もし,これが事実であるとしたら,東電のやっていることはまったく馬鹿げたことであるとしか言いようがない.もし,集中環境施設にたまっている水を【4号機のタービン建屋】に移送して「3号機の建屋付近の立て坑にたまった汚染水の水位が連動して高まる」という事象が起きるとしたら,同じことは高レベル放射性廃水を【4号機のタービン建屋】に移送したときにも起こるのではないか?つまり,【4号機のタービン建屋】はいずれプールとしては使えないということになる.
であるとしたら,いま緊急にそれを空っぽにするという作業はまったく意味がないだけでなく,有害無益だ.非科学的と言うもおこがましい,子どもでも分かる理屈ではないか?まさか?とは思うがサボタージュではないか?という疑念すら浮かぶ.
いや,失礼.勘違いしているのはわたしの方だった.いま空っぽにしようとしているのは【4号機のタービン建屋】ではなく,【集中環境施設のプール】だった.つまり,東電はそれなりに正しいことをやろうとはしている.しかし,繰り返しになるが,なぜそれを注水用の原水として使わないのか?水収支から考えればそれがもっとも正しい方法だが,東電が海洋処分を急いでいるのは,「早く高濃度放射性廃水用」のプールを空けなければ間に合わないという焦りだろう.
いまさら言っても始まらないが,わたしならこうしていただろう.目標は,産出される放射性廃液の総量を極小化し,併せて構内設備,路面を洗浄・浄化して構内の放射線量を低減させ,事後の廃炉工事の作業環境を可能な限り改善することである.構内のすべての水は雨水,雑排水系を含め閉鎖水系として管理されなくてはならない.
水管理が安定にできるようになったら,施設を順次コンクリートで埋め殺す「廃炉作業の準備活動」に入ることができる.すべての構内施設・設備はすでに放射性を帯びた放射性廃棄物であるから,コンクリートで埋め殺すというのは放射性廃棄物処分の規定から言えば「固化」に相当すると考えられる.ただし,このとき間違っても水路(暗渠,仮設したものを含む排水路)を潰さないようにしなくてはならない.これらの水施設を潰すのは工程の最後の最後である.
ステップ6で「雨水,雑排水などの低レベル廃水を集めるための【排水プール】を掘る」としているが,既成設備にこのようなものが備わっていないということは考えられない.防護服を洗った後の洗浄水等はすべて低レベル廃水として扱われなくてはならないからだ.おそらく,今問題になっている集中環境施設のプール1万5千トンというのがそれに該当するのだろう.
余分な心配だが,仮にこれを高レベル廃水用プールに転用するとして,この設備の水の出入りは考慮されているのだろうか?仮にここに汚染された雑排水が流れ込むような設計になっているとして,それを止めたら,これらの水はどこに行ってしまうのだろう?「海に流せばいいや」,という話なのだろうか?低レベル廃水用の【排水プール】はいずれにしても必要である.【集中環境施設】を【高レベル廃水プール】に転用するという現行方針に改めて疑問が湧いてきた.
①については1975年に発効したロンドン条約の1996年議定書がある.条文に当たる時間がないので,(財)高度情報科学技術研究機構の『原子力百科事典』の記事を参照した.
1975年8月末15ヶ国の批准により発効した海洋投棄規制条約(ロンドン条約)ではすべての廃棄物の海洋投棄処分を原則禁止している.日本は当初この条約には加盟せず,この年の10月に(財)原子力環境整備センターを設立して低レベル放射性廃棄物の海洋投棄処分を進めていたが,1980年の太平洋ベースン首脳会議で日本の海洋投棄が議題に上り,「完全な安全性が一定期間にわたって実証され,かつ太平洋の全ての資源が悪影響を受けないことが確証されるまで投棄計画中止を要求する」との共同声明が発表されたことから,低レベル放射性廃棄物の海洋処分を断念し,1980年の11月14日条約に正式加盟した.
1993年,条約締結国のひとつであるロシアによる日本海への低レベル放射性廃棄物の投棄が明らかになり,国際世論の強い批判を浴びた.日本ほかの沿岸諸国は直ちに投棄の即時中止をロシア政府に求めたが,同年11月2日には日本原子力委員会により,「日本は今後,低レベル放射性廃棄物の処分の方針として海洋投棄は選択肢としない」との自己決定がなされた.1996年議定書ですべての廃棄物の原則海洋投棄禁止が決まった.
同条約では,①有機ハロゲン、水銀、カドミウム、廃油、高レベル放射性廃棄物等の海洋投棄を全面禁止する.②ひ素,鉛等を相当量含むもの,低レベル放射性廃棄物等については,締約国の権威ある国家機関が事前に申請に基づいて個別的に投棄の許可を与えるとしているが,低レベル放射性廃棄物の海洋処分については締約国の特別な事前の許可を得ることが求められている.今回の低レベル放射性廃棄物の大量海洋処分は1993年の原子力委員会決定を自ら踏みにじるものであり,公衆の面前で放尿するに等しい破廉恥行為である.
②について考える.東京電力はなぜ海洋投棄という究極の手段を選択するしかなかったかという理由を述べて,「4日午前の段階では、集中環境施設にたまっている水は、現在は復旧作業に影響しない4号機のタービン建屋に移送する計画だった。だが千トンの水を移したところ、3号機の建屋付近の立て坑にたまった汚染水の水位が連動して高まり、あふれ出る恐れもあるためこの計画を断念した。」としている.
もし,これが事実であるとしたら,東電のやっていることはまったく馬鹿げたことであるとしか言いようがない.もし,集中環境施設にたまっている水を【4号機のタービン建屋】に移送して「3号機の建屋付近の立て坑にたまった汚染水の水位が連動して高まる」という事象が起きるとしたら,同じことは高レベル放射性廃水を【4号機のタービン建屋】に移送したときにも起こるのではないか?つまり,【4号機のタービン建屋】はいずれプールとしては使えないということになる.
であるとしたら,いま緊急にそれを空っぽにするという作業はまったく意味がないだけでなく,有害無益だ.非科学的と言うもおこがましい,子どもでも分かる理屈ではないか?まさか?とは思うがサボタージュではないか?という疑念すら浮かぶ.
いや,失礼.勘違いしているのはわたしの方だった.いま空っぽにしようとしているのは【4号機のタービン建屋】ではなく,【集中環境施設のプール】だった.つまり,東電はそれなりに正しいことをやろうとはしている.しかし,繰り返しになるが,なぜそれを注水用の原水として使わないのか?水収支から考えればそれがもっとも正しい方法だが,東電が海洋処分を急いでいるのは,「早く高濃度放射性廃水用」のプールを空けなければ間に合わないという焦りだろう.
いまさら言っても始まらないが,わたしならこうしていただろう.目標は,産出される放射性廃液の総量を極小化し,併せて構内設備,路面を洗浄・浄化して構内の放射線量を低減させ,事後の廃炉工事の作業環境を可能な限り改善することである.構内のすべての水は雨水,雑排水系を含め閉鎖水系として管理されなくてはならない.
- 4号機タービン建屋を高レベル廃水プールとして使うための準備:【4号機のタービン建屋】地下1階,2階にもしたまり水があれば,完全に汲み出して別のタンクに移送する.
- 【4号機のタービン建屋】地下1階,2階のシーリング防水工事(超速硬化ウレタン,ポリマーアスファルト等のシーリング材の吹き付け)を行う.1~3日で使えるようになる.
- 【4号機のタービン建屋】地下1階,2階(容量3万トン)に【トレンチ】の高レベル廃水(13300トン)を移送する.
- 【集中環境施設のプール】の低レベル廃水(1万トン)を注水用原水として使う.
- 【集中環境施設のプール】が空になったら【5,6号機の建屋付近地下】の低レベル廃水を注水に使う.(1500トン)
- 雨水,雑排水などの低レベル廃水を集めるための【排水プール】を掘る(1~2万トン).ここには高レベル廃水が流れ込まないようにしなくてはならない.
- 低レベル廃水プール(集中環境施設,5,6号機建屋地下など)が空になったときは,注水用原水として【排水プール】に溜まった低レベル廃水を使う.
- 注水用の水が不足するときは,地下水を用いる.地下水は低レベル汚染水と推定される.地下水の汲み出しは地下水の放射線量があるレベル以下になるまで継続的に実施する.構内の放射能分布,地下水脈を調査して井戸を適切に配置する.
- 敷地,施設,設備に真水を繰り返し散布して付着した放射性物質をできる限り洗い流す.真水は構内の浄化のためだけに用いる.散布された水は低レベル廃水として【排水プール】に流入するか,ないし浸透して後に地下水として汲み上げられる.
- 注水量を超える過剰な低レベル廃水はロシアから提供されるすずらん丸ないし新設プラントで処理して高レベル廃水に濃縮した後,高レベル廃水プールに保管する.
- 原子炉,未使用燃料貯蔵プールに注水された水と等量の高レベル汚染水が建屋外に流出し,非正規経路を通って地下のトレンチに流入する.トレンチがオーバーフローしないように少なくとも注入水と等量の滞留水を高レベル廃水プール・タンクに移動する.
- 高レベル廃水プールの容量にはいずれ限界がある(正規の冷却系が早期復旧すれば間に合う可能性もあるが).プールに保管された高レベル排水を暫定処理するためのプラントを立ち上げ,ドラム缶に格納して一時水中保管するなどの対策が必要になる.
- 構内のすべての廃水プールから低レベル廃水がなくなり,真水と高レベル廃水だけになった状態がゴールである.(実際には作業が続く限り低レベル廃水は発生するが)
水管理が安定にできるようになったら,施設を順次コンクリートで埋め殺す「廃炉作業の準備活動」に入ることができる.すべての構内施設・設備はすでに放射性を帯びた放射性廃棄物であるから,コンクリートで埋め殺すというのは放射性廃棄物処分の規定から言えば「固化」に相当すると考えられる.ただし,このとき間違っても水路(暗渠,仮設したものを含む排水路)を潰さないようにしなくてはならない.これらの水施設を潰すのは工程の最後の最後である.
ステップ6で「雨水,雑排水などの低レベル廃水を集めるための【排水プール】を掘る」としているが,既成設備にこのようなものが備わっていないということは考えられない.防護服を洗った後の洗浄水等はすべて低レベル廃水として扱われなくてはならないからだ.おそらく,今問題になっている集中環境施設のプール1万5千トンというのがそれに該当するのだろう.
余分な心配だが,仮にこれを高レベル廃水用プールに転用するとして,この設備の水の出入りは考慮されているのだろうか?仮にここに汚染された雑排水が流れ込むような設計になっているとして,それを止めたら,これらの水はどこに行ってしまうのだろう?「海に流せばいいや」,という話なのだろうか?低レベル廃水用の【排水プール】はいずれにしても必要である.【集中環境施設】を【高レベル廃水プール】に転用するという現行方針に改めて疑問が湧いてきた.
by exod-US
| 2011-04-05 22:23
| フクシマ・サボタージュ