2010年 06月 16日
みかみかりんご♪さんから頂いた難問―金融取引への課税について
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前半部を書いているときにはまだ質問の趣旨をよく把握していなかったため,多少的外れなところがあるかもしれない.後半部では,質問の趣旨を「全銀ネット上のトランザクションには,銀行から企業への融資,個人への貸し出し,あるいは消費者金融からの借金などの金融取引が含まれているのではないか?これによってトランザクション総量が膨張し,見かけ上の取引高を大きくしているのではないか?」と理解した上で,それについての回答を試みた.
非常に本質的な鋭いご質問であると思う.前半部はコメント欄でのレスの転載だが,一部加筆している.本エントリでは電子的実取引税制のライフサイズ(等身大経済)原則に従い,すべての金融取引を非課税とすることを改めて確認した.大方のご批判を仰ぎたい.(馬場英治)
Commented by みかみかりんご♪ at 2010-06-15 00:31 x
はじめまして☆ exod-US様
私は最近貴記事を読ませていただきながら、現代税制をよりよいものへするために勉強している者です。
読んでいて少し疑問に想ったので、質問させてください。
こんなにも税収を得られるということは、今まで課税されていなかったところから取るようになったということが大きいですよね。
貴ブログで書かれていた、宗教法人や暴力団などから課税するというのはその1つだと思います。しかし、それだけではどうにも少ないと想うんですよね。そこで質問です。
他にどんな取引に課税されるとお考えですか?
それを知るためには、全銀ネットの取引にどんなものがいくらあるのか?(給与振込○円、融資○円、貸付○円、借金○円など・・・各項目の課税ベース)を把握していなくては、現実的に考えることは難しいと想うのです。
どうでしょうか? exod-US様☆お返事待っています♪
Commented by exod-US at 2010-06-15 11:02 x
みかみかりんごさん:こんにちは.鋭いご指摘ありがとうございます.
全銀ネット上のトランザクション総量は日銀が月次で公表していますので,税率さえ決まれば税収を(個別の項目を完全に無視して)正確に予測することができます.基本的には税収を推計するためには個別の課税ベースを考慮する必要はありません.
例示された項目で言うと,給与振込みは企業と従業員の取引に関わる資金の移動(決済)に当たりますから,当然課税の対象になります.融資,貸付,借金などは金融取引に該当するので電子的実取引税制度では非課税です(この点はあまり明示的ではなかったかも知れません).ただし,非銀行系の金銭貸借に関しては(わたしの個人的見解ですが,本則的には)課税の対象になると考えます(現在は銀行自体が「貸し金業」を営んでいますからこの辺りは議論の余地があると思います).
わたしは銀行業務の実務家ではありませんので,もしかすると間違っているかもしれませんが,このような窓口業務は全銀ネット[=内国為替制度]上の「取引」には現れないのではないかと思います.本人口座への入金も非課税ですから,返済のための入金も課税されません.
「銀行マネー」の実態は,銀行の預金口座データベース上の電子的媒体に記録されたビット符号です.銀行が企業ないし個人にローンを組むということは,その銀行の顧客データベースを更新してそのお客の電子的口座に記録されたあるビット数の数値を変更するという操作であり,それ以上のものではありません.銀行はそのとき,貸し付けに要する原資をどこかから(たとえばその銀行の日銀当座預金から)持ってくる訳ではありませんから,トランザクションは発生しないと考えるのですが,違うでしょうか?
仮にこのような法人・個人と銀行間の金融取引が全銀ネット経由で行われているという「実態」があるとすれば(たとえば支店から本店へ口座入金指示書が全銀ネット経由で伝送されるなどのことがあれば,名目上の全銀ネット取り扱い高はそれだけ膨張する),システム的にそのような「取引」を除外する必要がありますが,それは(テクニカルには)それほど難しくないのではないかと思います.電子的実取引税制度では「一切の例外を認めない」という「ゼロトレランス原則」を打ち出していますが,このような除外規定が仮に必要であったとしても,それはゼロトレランス原則に抵触するものではないと思います.
PDF版をお読みになりましたか?PDF版ではかなり加筆していますので,もし,未だでしたら是非ダウンロードしてご一読ください.詳細な脚注と完全なレファランスが付いています.
http://www.aya.or.jp/~babalabo/DownLoad/TransactionTax.pdf
ご質問の趣旨に必ずしもぴったりという訳ではありませんが、PDF版の第3章「◆すべての人に恩恵が行き渡る」という節(オンライン版にはない)では,「基本的に個人・法人を問わずすべての納税者で(所得税を納めている限りは)多かれ少なかれ納税額の減額が起きるものと予想される.」とし,その理由を説明しています.
>他にどんな取引に課税されるとお考えですか?
電子的実取引税はすべての取引に包括的にかかりますから,「すべて」にということになりますが,それでは回答になりません.お尋ねの趣旨はそういうことではなく,「税収増がリアルに起こるとしたら,これまで(それほど大きな規模で)課税を免れていたゾーンは何か?」ということになると思います.でしたら,答えは「分かりません」です.現状わたしはタバコ税・酒税[・消費税]などを除けば基本的に非課税ゾーンで暮らしておりますので,ひとがどうやってお金を隠しているのか空想することもできません.
先だってコメントを書き込まれている税理士さん(井原さんという方です)あたりに聞けば多分かなりのことが分かると思いますが,教えてくれないでしょうね(少なくとも実名では).彼は「捕捉率を高めることは、われわれの業界では悪のように思われております」と書かれています.脱税はこの国では犯罪ですから,まさか「わたしはそれを幇助しています」とは言えません.
菅内閣は超党派の議員による『財政健全化検討会議』を提起していますが,同時に国民総背番号制の導入も考えているようです.これは捕捉率を高めることにより「所得税の税収増」を図ることを狙ったものと言えるでしょう.しかし所得税は基本的に「自己申告」を原則とする制度ですから,総背番号制の導入によっても所得税の捕捉率を100%にすることは不可能であると思います.つまり,正直者がバカを見るという状態は引き続き継続します.正直者が増えることは確かですが,それでも所得隠しを根絶することはできないでしょう.
国民総背番号制があっても政府がすべての企業・個人の会計帳簿を完全に把握することはできません.もしそれができればそれらを突合せることによって捕捉率100%を達成することは原理的に可能ですが,そんなことはコスト的に不可能です.現在国税庁は徴税コスト統計を出していませんが,100円につき2円程度かかっているのではないかと推定されます.40兆円の税収を得るために8000億円かけている計算ですが,捕捉率100%の目標を達成しようと思ったら,そのためのコストは税収増を吹っ飛ばしてしまう規模のものになるに違いありません.
税は他の債権・債務と異なり,「時効」というものがありません(相続放棄もできません).従って,国税当局は何時何ん時でも過去に遡って追徴というのを行うことができます.仮に一般取引税が導入され,所得税が無税化されたとしても,ある人が過去に犯した徴税を免れる罪が免除されるものではありません.わたしの個人的見解ではそのときには「大赦」のようなものを出して,過去の未申告分を帳消しにしてもよいと考えていますが,国民の総意に委ねるべき事柄でしょう.ここでは,逆にそれを機会に「厳正に法を執行する」ことを国民が選んだとします.
この場合には,次のようなことが起きるものと推定されます.「過去歴代の総理大臣・国会議員を含め,(松下幸之助氏を除く)すべての高額所得者は脱税の罪によって獄に繋がれることになるだろう」というものです.これはお尋ねの問いに対する回答になっていませんか?わたしは最初に「分かりません」と書きましたが,「検察・国税・国家権力が把握できないものをわたし如きが知る訳はないだろう」ということをご納得頂けたでしょうか?
徴税の不公正が(この国には限りませんが)深部においてどれほど私達の社会を蝕み歪めているかはご想像頂けると思います.一般取引税制なかんずく電子的実取引税システムはこのような社会の病弊とも言うべき深刻な問題を根本的に解決します.国民総背番号制は「国民全体を潜在的犯罪者とみなす国家思想」と呼んで差し支えないと思いますが,電子的実取引税で実現される「アノニマス原則」はこのような邪悪で不幸な国家思想の対極にある考え方です.
みかみかりんごさんが提起されている問題の趣旨は「全銀ネット上のトランザクション=銀行口座間の資金移動=1営業日当り10兆円(2009年度実績は9兆円に減少)には,銀行から企業への融資,個人への貸し出し,あるいは消費者金融からの借金などの金融取引が含まれているのではないか?これによってトランザクション総量が膨張し,見かけ上の取引高を大きくしているのではないか?」ということと理解しました.
電子的実取引税制では「等身大の実物経済の上に構築される」とし,これを「ライフサイズ原則」と呼んでいます.このため課税ベースを全銀ネット上のトランザクションに限定し,インターバンクなどの銀行間取引,証券取引所・手形交換所などの清算業務を課税対象から外しています.【電子的実取引税税率3%モデル】項目5に「銀行業務には課税しない」とありますが,これには当然銀行の一般貸出業務が含まれます.しかし,みかみかりんごさんが指摘されたように,全銀ネットの取り扱い高の中にはこれらの金融取引が含まれている可能性はあります.
銀行の融資・返済などの業務が全銀ネット上のトランザクションとして処理されているかどうか?筆者には確かな知識はありません.銀行の(貸出などの)窓口業務は全銀ネット上のトランザクションにはならないのではないか?と推測していますが,確たる根拠はありません.これは実務上の業務慣行の問題であると認識していますが,もし,事実そのような取り扱いになっているとすれば,これまでの計数的な推計には大幅な訂正が必要になる可能性があります.ただし,仮にそのようなことがあったとしても,本論の論旨そのものに揺らぎはありません.このようなトランザクションを非課税扱いすることはテクニカルには特に難しくないと考えられます.
非銀行系金融機関は取引銀行に口座を持ち,顧客との取引をこれらの口座を介して行っているので,当然全銀ネット上のトランザクションに含まれます.このような形態の取引に対する課税については本文中にあまり明快な記述はありません.コメント欄では(私見ではと断っていますが)このような金融取引についても例外なく課税するとしましたが,再考を要します.
(1)銀行からの借入では無税,貸金業者からの借り入れには課税というのは不公平.
(2)金融取引に電子的実取引税を適用するのは原理的にもテクニカルにも難しい.
一般取引税は言ってみれば,通貨の発行権者である国家による通貨の使用料の徴収であり,「円」というブランドのロイヤリティフィーに当たりますから,金銭貸借取引について課税するというのは原理的には可能であり,不当なものではありません.しかし,一方(銀行系)では同じ行為が非課税となり,他方では課税されるというのでは,法の下での平等の観点から大きな問題が生じます.もし,これを実施すれば貸金業者は最終的に「地上から消える」ことになるでしょう.「経済にニュートラルな税制」を謳っている以上,できるだけ実物経済側にインパクトを与えないような税制が望ましいことは言うまでもありません.
金融取引への電子的実取引税の適用には,原理的・テクニカルな面から見ても困難があります.電子的実取引税は取引の決済を行う時点で課税するものです.この決済は「通貨」を持って行うものですから,「支払完了性を有し,取引を無条件に完了」させます.つまり,資金移動の起こるある時点=「瞬間」にそれに関わる金額に対する徴税が(一度だけ)実行されます.これに対し,「金融取引」には「時間性」が関係します.「金利」には貸借の期間が関係し,利率もそれに応じて変化します.一方は移動資金の「量」に一律の税率で課税しますが,他方では「取引期間の長短」を無視することはできません.つまり,一般取引税は「微分的」に作用し,金融取引は「積分的」に作用するという背反した性格を持っています.
たとえば,授業料のようなものは「ある期間のサービス」に対する対価ですから,やや金融取引に類似したところもありますが,「ある期間のサービス」を1個の商品(サービス)とみなすことにより,前払いであるか後払いであるかに関わりなく,その金額が支払われた時点で課税することが可能です.この場合,たとえば半年分の授業料であれば,半額になると考えられますから,1年間の授業料と半年分の授業料に同一の税率を適用しても問題ありません.つまり,時間が作用する取引の場合にも,その取引が時間に対し「加算的」な性質を持っていれば,固定税率を適用することで問題ないということが分かります.
明らかに金融取引の場合にもこのような「時間的加算性」があると考えられます.ただし,その加算性は取引金額全体に対するものではなく,金利部分に作用するものであると考えられます.少し分かり辛いかもしれませんが,たとえば,1000円借りたものをその日に返すのと10年後に返すのに同じ取引税率を適用した場合どういうことになるかを考えれば,時間加算性が金利にのみ作用しているという言い回しをご理解頂けるかと思います.もう少し砕いて言うと,「金融取引では課税対象は金利部分のみと思考される」ということです.
しかし,ある金融取引に関わる資金移動のうち金利部分のみを抽出するということが可能でしょうか?貸付という取引の片側では金利は含まれていないと考えることができますから,金融機関⇒顧客のフローでは非課税とするのが妥当です.顧客⇒金融機関のフローでは資金移動の一部は金利であると考えられますが,その額を決定することは困難です.従って,その資金移動に関わる貸付期間を知ることができないという条件の下では,その資金は貸し付けられた後,直ちに返済されたものと推定する以外ありません.「直ちに」の意味を「1日」と解釈するとすれば,金融取引税率の上限として以下のような定式が(一例として)導出されます.
上限金融取引税率=上限金利÷360×一般取引税率
上限金利を15%とすると,実効利率は15%÷360=0.04167%となり,電子的実取引税の税率が3%であるとすれば,上限金融取引税率は0.00125%になります.この利率を1億円の金融取引に適用すると税額は125000円となり,ほとんど非課税に等しいものと言えます.電子的実取引税では金融取引に課税することを想定していませんが,仮に適用することがあるとしても一般取引税率とはオーダーの異なる0.001%程度のごく低率のものになるのではないかと思われます.(ちなみに2009年にスティグリッツが座長を務めるWGが国連に提出した報告書ではトービン税=国際金融取引税の税率として0.005%を提案している.)
金銭貸借取引に課税することは,ある意味で借金経済・ローン地獄を容認することであり,電子的実取引税の「ライフサイズ原則」に背反するものです.電子的実取引税制度ではすべての金銭貸借取引は非課税とするのが妥当な結論であると思われます.
問題はそれをテクニカルに実現することが可能であるかどうか?というところに絞られます.かなり難しい問題です.全銀ネット上のすべてのトランザクションをその取引区分(取引形態)に応じてカテゴライズするというのは実際的ではありません.紙幣の表には「借りたお金」とは描いてありません.確かに,これがみかみかりんごさんの提出された設問(というより難問)です.
一つの方策として,トランザクションを区分するのではなく,融資に用いる金融業者側の口座(金融業者が銀行に置いた口座)に特殊な「属性」を与えるということが考えられます.基本的に貸金業は登録業者にしか認められていない業務ですから,このような特殊口座の設置を義務付けることにより,法のより厳格な適用が可能になると考えられます(もぐりの業者ではそのような口座を持つことはできないので,自ずと抑制される).
問題が残るとすれば,この非課税口座を経由して一種のマネーロンダリングのような脱法・脱税行為が行われることはないか?という点です.この点に関してはそれほど重大視する必要はないかもしれません.お金は結局現物経済に戻ることになるからです.(資金がその口座に滞留している間は,口座自体は一種の静的なクリアリングハウスとみなされる.)このような非課税口座から/へのキャッシュの移動が禁止されることは言うまでもありません.場合によっては,このような特殊口座に対し厳重な監視が必要となる可能性も考えられますが,モニタリングフリーの原則を崩すべきではありません.
監督官庁は業者の許認可に関してかなりの裁量を持つことになりますが,そのような権限は現時点においてもすでに付与されている訳ですから,新たな問題が発生したという訳ではありません.むしろ問題があるとすれば,何かの口実を設けてこのような「非課税口座」を次々に(特例法案によって)開設してゆくような動きでしょう.もしそのようなことがあるとすれば,それこそゼロトレランス原則に対する重大な侵犯です.
ここまでの議論で抜けているのは,金融業者に対する課税の問題です.一般取引税3%モデルでは税制は電子的取引税に1本化されていますから,トランザクション・タックスを非課税化するということはその業種全体が非課税になることを意味します.銀行に関しては,送金手数料の無料化を交換条件として非課税としていますが,貸金業に関しては特にそのような理由は見つかりません.従って,金融取引を非課税とした以上,なんらかの別の課目で課税することが必要になります.現行の法人税ないしそれに相当する課税方式を金融業に限り適用するというのも一つの考え方かもしれませんが,別の考え方も有り得ます.たとえば,金銭貸借の上限金利を大幅に下げることをもって非課税の条件とするなどです.この当りは政策上の問題です.
もっと細部まで見る必要はあるかもしれませんが,原則的には一応これで筋が通るのではないかと思います.このように全銀ネット上の金融トランザクションをすべて課税対象から除外するとすれば,確かにその規模が問題になりますね.どこかに数字があるでしょうか?もし,本論の中で計算に用いている税率では予定税収をカバーできないとすれば税率をいじって調整することになりますが,それは間違った方向性であると思います.むしろ,政府は歳出を削減することで実物経済の身の丈にあった財政を構築するべきでしょう.
上にも記したように全銀ネットの1日当りトランザクション総量は2009年に入って10兆円から9兆円に減少しました.全銀ネットは実物経済の血流ネットワークであり,国民経済共同体の身体そのものです.このネットワークにおける流動性(貨幣循環)が10%も減少しているというのに,「景気が回復している」などということが有り得るでしょうか?国民経済が困窮のどん底を這いずっていることはこの数字にもはっきり現れています.
なお,あまり確かではありませんが,巨額資金の移動(たとえば1億円を超える)場合などでは全銀ネットを使わずに,インターバンクを経由することになっていたような気もします・・・
読んだけどさっぱり分からんという方は下記パンフ(小論文)をどうぞ.
税制を変えれば政治も変わる
一般取引税を導入して夢のジパングへ
第1章 税率1%の一般取引税を導入すれば消費税増税が不要になるばかりか,
消費税そのものを廃止できる
《コラム》 CLS銀行によって国際金融トラストのモノポリーが完成する
第2章 実施可能な一般取引税の類型としては今のところ電子的実取引税しかない
第3章 一般取引税税率3%モデルのシミュレーション(まとめ)
by exod-US
| 2010-06-16 02:45
| 静かなる革命2009