一般取引税を導入することにより既存の課税項目をすべて廃止し,公正で徴税コスト最小の理想的な税制を実現できる可能性がある.しかし,これまでに提案されてきたいくつかの一般取引税の類型(トービン税,APT税,ファタ議員法案など)にはそれぞれ解決不能な難点が存するため,今のところ近未来に実現される見通しは薄いように思われる.このような範疇の中で直ちに実現可能な具体案としては,唯一本稿でご紹介した「電子的実取引税」しか存在しない※.
※【第2回】でも触れたように米国議会図書館調査部門(CRS, Congressional Research Service)は2004年に一般取引税の実施に関わるフィーザビリティ調査を行い議会に提出した.それによれば「4.3%の税率で合衆国連邦政府の全歳入をまかなうことができる」.つまり,一般取引税は実施可能という結論がすでに米国の公的機関から示されている.この試算が依拠する課税ベースの範囲は必ずしも明らかではないが,4.3%という税率から推定して(電子的実取引税と同様)金融取引を課税範囲から除外した推計のように思われる.(9/24)
電子的実取引税とは一般取引税の一種であり,国内の全金融機関を接続するオンライン為替決済システム上で一つの銀行口座から自行・他行口座への資金移動がなされたとき,その資金にある低率で固定の課税率を乗じた徴税金額を自動的に「源泉徴収」して即日国庫に納付する電子的課税制度である.これは100%取りはぐれのない全自動徴税方式であり,おそらく,これよりも効率的かつ網羅的な徴税方法は存在しない.その意味で究極の徴税方式と言える.このような徴税方式は当然,金融機関を相互接続するオンライン・ネットワークが発達していることを前提とするので,実現の可能性があるのはG20加盟諸国などに限られると見られる.

幸いわが国には「全銀ネット」と呼ばれるネットワークシステムがすでに実稼動している.全銀ネットは日本銀行がオーバーサイトし,東京銀行協会が運営する電子的内国為替決済システムである.銀行系ATMはすべてこのネットワークに接続している.このシステム上に「電子的実取引税システム」を構築する上でのテクニカルな問題は存在しない.「電子的実取引税システム」は「アイディア」ではなくて「構想」であり,明日にでも実現可能な「政治課題」である.
電子的実取引税導入の条件が歳入中立(その税制を導入することによる税収の変化がないこと)であるとしよう.どっちみちトータルで同じ金額の税が徴収されるのだとしたら,その優劣はどこで判定されるのだろう?個人・企業を問わず,どの経済主体も「税を取られたくない」と一様に考えているとすれば,「公正であるか否か」がまず問われなくてはならないことは明らかだ.この意味では電子的実取引税に匹敵する税制は存在しないと言っても過言ではないだろう.
電子的実取引税制度の課税ベースは消費税の課税ベースより10倍大きいので,1%の税率で20兆円の税収があり,税率5%なら100兆円に上る税収を確保することができるから,国と地方自治体のすべての既存租税を全廃することも可能である.一般取引税の税率は消費税のようにむやみに高率にすることはできないので,5%というのはおそらく上限に近い.
以下では電子的実取引税税率3%で既存国税をすべて廃止する(地方税は存続)というモデルをベースに議論を進めることにする.電子的実取引税を実際に導入したらどうなるか?その得失を考えてみたい.まず,考察の対象となるモデルと適用原則を定式化しておこう.
【電子的実取引税の適用4大原則】1.ライフサイズ:実物経済ベース:実取引税制は等身大の実物経済の上に構築される.
2.ゼロトレランス:例外を許さない:実取引税制ではいかなる例外,特例措置も認められない.
3.アノニミティ:匿名性:徴税権者は徴税を行うために個人情報を必要とせず,また求めない.
4.モニタリングフリー:国民監視の禁止:管理者はシステムを国民監視の目的で使用しない.
【電子的実取引税税率3%モデル】1.全銀ネット(内国為替制度)上のすべての資金移動に3%の取引税を課する.
納税義務者は資金の受取人とし,移動にかかる資金に0.03を乗じた金額を
即時オンラインで源泉徴収する.ATMからの送金も同様とする.
本人口座への預金と本人口座からの出金には課税しない.
2.外国銀行口座への送金,外国銀行口座からの入金にも課税する.
外国銀行口座へ/からの送金/入金の納税義務者も資金の受取人である.
外国銀行本人口座への送金の場合も課税を免れない.
受取人が外国人である場合も課税を免れない.
外国銀行本人口座からの出金には課税しない.
3.現金取引には課税しない.
4.外国為替,手形,小切手,証券,債券などの公的クリアリングハウスには課税しない.
クレジット,電子マネー,ポイント,地域通貨などの私的クリアリングハウスには課税しない.
クリアリングハウスへの資金の持ち込み,持ち出しの時点で該入金口座に課税する.
5.銀行業務には課税しない(代りに破産時の救済も行わない).
6.銀行は国の徴税業務を無償で代行する.
銀行は電子的資金移動にかかわる手数料を(窓口業務を除き)徴収しない.
銀行は徴収した金額を毎日定時に中央銀行に送金し国庫に納付する.
7.銀行は年度末に徴税額総額を集計し証書を作成して口座名義人に送付する.
銀行は年度末(ないし各月末)に徴税統計を作成して監督官庁に提出する.
8.中央銀行は電子的実取引税システムを構築し,それを管理する.
9.すべての既存国税課目(消費税・所得税・法人税・相続税・・・)は撤廃される.
地方税は引き続き存続する.地方自治体は独自の税体系を持つ.
10.電子的実取引税税率は国家予算編成期に国会でこれを定める.
中央銀行は国会において取引税税率につき意見を述べることができる.
電子的実取引税には他の税制に比することのできない以下のような長所がある.
◆超安定なシステムである実取引税システムの課税ベースは全銀ネット上の内国為替トランザクション(決済)である.これは国内における金融取引以外のほとんどすべての電子的決済(送金)を含むと考えられる.つまり,実物経済の循環系であり血流そのものである.生きているということがすべて何らかの経済活動であるとすれば,このネットワークは個々の国民・企業の経済活動の総体であり,我々日本国民が総体として生き続ける限り存続する国民経済共同体の永続ネットワークである.このネットワークのノード(結節点)は金融機関であり,金融機関には本来的な不安定さ(預かり金以上の金額の貸し出し,すべての預金者が引き出しに来たときには支払い不能になるなど※1)が付き纏っているが銀行間の貸し借りなどの不安定要因はこのネットワーク上には存在しない※2.電子的実取引システムの超安定性は税制の第一基本原則である「ライフサイズ原則」から導かれる.「カジノ経済」はこの原則によりシステムから完全に閉め出される.
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