2011年 04月 03日
原発危機:高レベル放射性汚染水の海洋への漏出を止める
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今日で震災発生から25日目,1号機の爆発から数えても24日が経過したが,事態は概ね前回のエントリ『原発危機:福島第一原発水葬までのロードマップ』に示した方向にゆっくりではあるが動き始めた.この記事の中で「海面に向かっている冷却水の取水口と排水口は完全に閉鎖しなくてはならない.この水路系の放射線レベルを測定すれば,表流水ないし雑排水系から放射性汚染水が流出している箇所を特定できるだろう」と述べているが,2日になって取水口付近のピットに20センチメートルの亀裂がありそこから高濃度放射性汚染水が流出していることが発見された.ピットにコンクリート投入という応急措置が取られたが漏出は止まらなかった.
『ロードマップ』には「レベルゼロ以下の空間をすべてコンクリートで充填すれば,少なくとも排水系のすべての漏れは止まるはずだ」と書いているのでこの措置はそれに沿ったものとも考えられるが,もしそうであるとしたら,ちと早呑み込みという気がする.少なくともわたしのイメージではこのような工作は「トレンチの汚染水をすべて汲み上げた後」に実施されるべきものである.もう一度読み直して欲しい.「トレンチの水面が下がれば建屋地下の水も引き,...わたしはこの時点で建屋地下をコンクリートで完全に充填し埋め殺すべきであると思う.」と書いているはずだ.トレンチは海面から16メートルから26メートルの地下に埋設されているので,必ずしも「すべて汲み上げる」必要はないが,トレンチの水位を下げることによりそれと連通する地上・地下施設の水が引くことを前提としたシナリオである.
トレンチ内には13300トンの汚染水があり,これを汲み上げるために少なくとも以下のような準備が整いつつある.①静岡市から提供されたメガフロート(10000トン),②第一原発埠頭に接岸中の米軍はしけ船(1140トン×2),③集中環境施設(放射性廃液処理施設)のプール(11000トン).ただし,②は交渉中,③は現在のところ真水で満水状態など,ただちに使用できる状態にないため4号機タービン建屋地下1,2階を臨時の水タンクとして使用するという状況で,トレンチの水位が下がるにはまだかなりの日時を要する見込みだ.
報道を読む限りでは,ピットに生コン5立方メートルをどどっと投入しているように思われるのだが,これで本当に止まると思ったのだろうか?写真で見ると漏出している水はかなりの勢いで亀裂からほとばしり出ているようだ.もしわたしが現場にいたらおそらくこうしていたと思う.
(1)亀裂にボロを当てて板で押さえ,その板にバリ(突っ張り)をかませて流出を止める.
(2)水を可能な限り汲み出す.
(3)残った水を拭き取るか,ないし砂利を一定量投入する.
(4)急結コンクリートを打設する.
日本の土工はレベルが高いからこの程度の仕事なら指図しなくてもやっているだろう.被曝リスクのもっとも高いのは(1)の作業だが,これが実施可能だったのかどうかはわたしには判断できない.もし不可能だったとしても打つ手がまったくないという訳ではない.このピットは電源配管の検査用に設置されているが,もし底のある水密な容器とみなすことができるのなら水漏れしない蓋を付ければよい.ピット外枠の内法にぴったりはまる五右衛門風呂の浮き蓋のようなものを作って下からサポートで支え,地表に仮枠を組んでコンクリートを打設する.
もし浸透枡のように底が抜けた構造なら,少なくともある厚みのコンクリートを打って底を付けなくてはならない.この場合は水を汲み上げても流入してくるだけだから,むしろ水を上まで張った方がよい.水中でも溶解しない水中コンクリートというのがあるので,トレミー管などを使ってこれを底面に静かに流し込む.水を深くしているのはできるだけ水の流動を避けるためだ.わたしはこんなことはやったことはないが,この種の工事を得意とするところは探せばすぐ見つかる.
今日はピットにつながる電源用配管に高分子ポリマーなどを投入しているが,ピットへの流出は止まらなかった模様だ.報道だけでは状況はよくつかめないが,もし失敗しているとしたら水が停滞しているためと考えられる.「女性の髪でも止められる」と書いているが,これが可能なのは漏れが「流水」状態になっている場合に限られる.ピットに近いところでやっていれば成功率はもっと高かったと思われるが,取水口などの構造物の関係でできなかったのだろうか?
漏れ出しているのだから流動性がまったくないという訳ではないが,そこまで届く前に水平に拡がって効果を失っているのだろう.しかし,配管を露出して工作しているのだから止められないというのもおかしい.パイプに何か(ボロでも粘土でも何でもよい)を詰めさえすれば止まるはずで,場合によっては急結モルタルでもよいと思う.何かわたしが勘違いしているのだろうか?
むしろ汚染水の流路が,電源用配管ではないという可能性の方が高いような気もする.ただちにトレンチの水位を下げることができないとすれば,縦抗から先の海側の区間のトレンチだけを止めるという方法もあるのではないだろうか?下の図解を見ると縦抗に2本のトレンチが直角に入り,そこから海側に分かれるようになっている.この3本目のトレンチの深さを示す立体図は見当たらないが,地表近くに埋設されたオーバーフロー管ではないかと推定されるので,これを縦抗のところで直接止めることは可能なのではないだろうか?水門があれば,それを閉じればよいというだけだが,何か方法はありそうな気がする.
配管の口径があまり大きくなければ,縦抗の開口部で上記の要領で当てものをしてバリをかませるという手がある.かなり大きいときでもたとえば,厚めのゴム板のようなものを押し当てておいて,下流の水を汲み出せば水圧でゴム板が壁面に圧着して水を止められるかもしれない.漏れがあったとしても吸入⇒吐出の吸入側だから止水はそれほど難しくないはずだ.ここの放射線量はおそらく海側より高いと思われるので,実施可能であるかどうかは分からない.
もし,どうしても(少なくともトレンチの水位を下げるまで)止めることができないとしたら,ポンプを一台据え付けてトレンチに還流する以外ないだろう.というか,まず最初にそれをやるべきではないか?前出の『ロードマップ』には「すべての地表水の流路を点検し,それらがすべて地下トレンチに流入するようにする」と書いた.原子力安全委員会のどなたかが言われているように,放射線量レベルの異なる水は異なるプールに集めた方が後始末が楽になることは確かだから複数の水系を管理するということになるだろう.
工法を選択するときには,つねに後工程のことを考えなくてはならない.基本的にすべての高レベル放射性廃水,中レベル放射性廃水,低レベル放射性廃水は,それぞれ①集められ,②保管され,③処理されなくてはならない.ポンプで最後まで水を吸い上げるにはポンプを落とし込むピットが必要になる.水勾配を考えるとこのピットを早々と潰してしまったことが惜しまれる.
現場に土木のプロがいないような気がする.阿修羅の匿名氏は,「今集められている(今の事態を想定できなかった)原子力の専門家だけではこの事態を収拾できないだろう。水処理、土木、建築、船舶の専門家の知見を集め具体的方策を策定すべきだ。」と提言されている.事態はすでに一電力企業のノウハウで対処できる範囲を超えている.
班目春樹・原子力安全委員長は28日夜の記者会見で、東京電力福島第1原発のトレンチでみつかった高放射線量の汚染水への対応について、 「どのような形ですみやかに実施できるかについて、安全委ではそれだけの知識を持ち合わせていない。 まずは事業者(東京電力)が解決策を示すとともに、原子力安全・保安院にしっかりと指導をしていただきたい」と述べた。原子力安全・保安院がただの飾りの役にも立たないことはこれまで見て来た通りだ.
わたしは,気を失いかけながら大人たちが来るのを待っている一人のハンス少年に過ぎない.
『ロードマップ』には「レベルゼロ以下の空間をすべてコンクリートで充填すれば,少なくとも排水系のすべての漏れは止まるはずだ」と書いているのでこの措置はそれに沿ったものとも考えられるが,もしそうであるとしたら,ちと早呑み込みという気がする.少なくともわたしのイメージではこのような工作は「トレンチの汚染水をすべて汲み上げた後」に実施されるべきものである.もう一度読み直して欲しい.「トレンチの水面が下がれば建屋地下の水も引き,...わたしはこの時点で建屋地下をコンクリートで完全に充填し埋め殺すべきであると思う.」と書いているはずだ.トレンチは海面から16メートルから26メートルの地下に埋設されているので,必ずしも「すべて汲み上げる」必要はないが,トレンチの水位を下げることによりそれと連通する地上・地下施設の水が引くことを前提としたシナリオである.
報道を読む限りでは,ピットに生コン5立方メートルをどどっと投入しているように思われるのだが,これで本当に止まると思ったのだろうか?写真で見ると漏出している水はかなりの勢いで亀裂からほとばしり出ているようだ.もしわたしが現場にいたらおそらくこうしていたと思う.
(1)亀裂にボロを当てて板で押さえ,その板にバリ(突っ張り)をかませて流出を止める.
(2)水を可能な限り汲み出す.
(3)残った水を拭き取るか,ないし砂利を一定量投入する.
(4)急結コンクリートを打設する.
日本の土工はレベルが高いからこの程度の仕事なら指図しなくてもやっているだろう.被曝リスクのもっとも高いのは(1)の作業だが,これが実施可能だったのかどうかはわたしには判断できない.もし不可能だったとしても打つ手がまったくないという訳ではない.このピットは電源配管の検査用に設置されているが,もし底のある水密な容器とみなすことができるのなら水漏れしない蓋を付ければよい.ピット外枠の内法にぴったりはまる五右衛門風呂の浮き蓋のようなものを作って下からサポートで支え,地表に仮枠を組んでコンクリートを打設する.
もし浸透枡のように底が抜けた構造なら,少なくともある厚みのコンクリートを打って底を付けなくてはならない.この場合は水を汲み上げても流入してくるだけだから,むしろ水を上まで張った方がよい.水中でも溶解しない水中コンクリートというのがあるので,トレミー管などを使ってこれを底面に静かに流し込む.水を深くしているのはできるだけ水の流動を避けるためだ.わたしはこんなことはやったことはないが,この種の工事を得意とするところは探せばすぐ見つかる.
今日はピットにつながる電源用配管に高分子ポリマーなどを投入しているが,ピットへの流出は止まらなかった模様だ.報道だけでは状況はよくつかめないが,もし失敗しているとしたら水が停滞しているためと考えられる.「女性の髪でも止められる」と書いているが,これが可能なのは漏れが「流水」状態になっている場合に限られる.ピットに近いところでやっていれば成功率はもっと高かったと思われるが,取水口などの構造物の関係でできなかったのだろうか?
漏れ出しているのだから流動性がまったくないという訳ではないが,そこまで届く前に水平に拡がって効果を失っているのだろう.しかし,配管を露出して工作しているのだから止められないというのもおかしい.パイプに何か(ボロでも粘土でも何でもよい)を詰めさえすれば止まるはずで,場合によっては急結モルタルでもよいと思う.何かわたしが勘違いしているのだろうか?
配管の口径があまり大きくなければ,縦抗の開口部で上記の要領で当てものをしてバリをかませるという手がある.かなり大きいときでもたとえば,厚めのゴム板のようなものを押し当てておいて,下流の水を汲み出せば水圧でゴム板が壁面に圧着して水を止められるかもしれない.漏れがあったとしても吸入⇒吐出の吸入側だから止水はそれほど難しくないはずだ.ここの放射線量はおそらく海側より高いと思われるので,実施可能であるかどうかは分からない.
もし,どうしても(少なくともトレンチの水位を下げるまで)止めることができないとしたら,ポンプを一台据え付けてトレンチに還流する以外ないだろう.というか,まず最初にそれをやるべきではないか?前出の『ロードマップ』には「すべての地表水の流路を点検し,それらがすべて地下トレンチに流入するようにする」と書いた.原子力安全委員会のどなたかが言われているように,放射線量レベルの異なる水は異なるプールに集めた方が後始末が楽になることは確かだから複数の水系を管理するということになるだろう.
工法を選択するときには,つねに後工程のことを考えなくてはならない.基本的にすべての高レベル放射性廃水,中レベル放射性廃水,低レベル放射性廃水は,それぞれ①集められ,②保管され,③処理されなくてはならない.ポンプで最後まで水を吸い上げるにはポンプを落とし込むピットが必要になる.水勾配を考えるとこのピットを早々と潰してしまったことが惜しまれる.
現場に土木のプロがいないような気がする.阿修羅の匿名氏は,「今集められている(今の事態を想定できなかった)原子力の専門家だけではこの事態を収拾できないだろう。水処理、土木、建築、船舶の専門家の知見を集め具体的方策を策定すべきだ。」と提言されている.事態はすでに一電力企業のノウハウで対処できる範囲を超えている.
班目春樹・原子力安全委員長は28日夜の記者会見で、東京電力福島第1原発のトレンチでみつかった高放射線量の汚染水への対応について、 「どのような形ですみやかに実施できるかについて、安全委ではそれだけの知識を持ち合わせていない。 まずは事業者(東京電力)が解決策を示すとともに、原子力安全・保安院にしっかりと指導をしていただきたい」と述べた。原子力安全・保安院がただの飾りの役にも立たないことはこれまで見て来た通りだ.
わたしは,気を失いかけながら大人たちが来るのを待っている一人のハンス少年に過ぎない.
by exod-US
| 2011-04-03 23:20
| フクシマ・サボタージュ